日々、痛みの診療をしていると、患者さんから寄せられる質問にはある程度の“共通点”があります。
もちろん痛みの背景や生活環境は人それぞれですが、「きっと迷っていたんだろうな」と感じるご相談が重なるたび、医師としてお伝えしたいことが少しずつ言葉になっていきます。
今日は、そんな日常の中で感じていることを、ゆったりと書いてみたいと思います。
1. どのくらいの痛みで受診したらいい?
これは本当に多い質問です。
痛みは数値化しづらく、他人と比べることもできないため、「受診すべき痛み」と「まだ大丈夫な痛み」の線を引くのはとても難しいものです。
私自身の答えは、
「生活の中で少しでも困りごとが出てきたら」
という、とてもシンプルなものです。
朝起きるのがつらい、家事に支障が出る、仕事が思うように進まない、ずっと不安が残る──
こうした“小さな支障”は、痛みが体だけでなく心の余裕も奪い始めているサインです。
「しばらく様子を見よう」と思っているうちに慢性化してしまうケースは珍しくなく、早めの相談が治療そのものを軽くし、回復のスピードにも影響します。
迷ったら、まずは気軽に相談してほしい。これが痛み診療に長く携わる中で強く感じていることです。
2. 主治医を変えたい。こちらで全部みてもらえますか?
このご相談も一定数あります。
長く痛みが続けば、「もう一度ゼロから見直したい」という気持ちは自然なものだと思います。
ただ、痛み診療というのは単独の医療で完結しないことが多く、整形外科・内科・腫瘍領域など、他の診療科との“つながり”の上に成り立っている部分が大きいのが実際です。
私はいつも、
「どの医療機関が主治医なのか」よりも、「患者さんにとって最適な役割分担は何か」
という視点で考えるようにしています。
痛みの治療に集中したほうが良い場面ではこちらが担い、元の病院で継続した方が安全な場合は、きちんと説明したうえでそちらへお戻りいただくこともあります。
医療は競争ではなく、患者さんを中心に複数の医療者が協調することで、本来の力を発揮するものだと感じています。
3. 薬だけもらえませんか?
忙しいときや不安なときほど、「まず薬を…」という発想になるのは自然なことだと思います。
しかし、痛みの治療においては、薬だけを渡すことが必ずしも患者さんの助けにならない場面も少なくありません。
痛みには、筋肉由来、神経由来、内臓の炎症、姿勢の癖など、実に多くの原因があります。
原因が違えば、効く薬も、必要な量も、治療の進め方もまったく変わってきます。
実際、薬を飲み続けて副作用だけ増えてしまったり、根本の原因が見落とされて長引いてしまったりするケースもあります。
そのため私は、薬も含めた治療を “体全体を見たうえでの選択肢の一つ” と捉えています。
もちろん薬が必要なときはきちんと処方しますし、生活の質が改善するなら治療として大いに価値があると思います。
大切なのは、「薬だけで解決しようと焦らないこと」。
診察で原因を探しながら、その人にとって一番無理のない形を一緒に考えることが治療のスタートになります。
4. 調べてきた治療法を試したい。こちらでもできますか?
最近はインターネットやSNSの普及で、患者さんがご自身の症状について詳しく調べて来られるケースがとても増えました。
「このブロックは適応になりますか?」
「超音波での治療は受けられますか?」
といった質問も多く、医師としては嬉しく感じることも多いです。
大切なのは、
“その治療法が、本当にその人の体に合っているかどうか”
という点だけです。
同じ治療法でも、痛みの部位・原因・期間・体質・既往症によって効果もリスクも変わります。
調べてこられた治療が適している場合もあれば、別の治療の方が安全で効果的なケースもあります。
「希望した治療を否定されるのでは?」と心配される方もいますが、そんなことはありません。
むしろ、その方がどういう理由でその治療を希望しているのかを知ることで、よりよい治療選択につながることが多いと感じています。
おわりに
痛みは、周囲から見えづらい症状です。
そのため、相談するにも勇気がいるし、「こんなこと相談していいのかな」とためらう気持ちもよく理解できます。
医師として日々の診療を重ねる中で、患者さんの迷いや戸惑いには共通点があり、そこに少しでも寄り添えたらという思いで、今回まとめてみました。
この記事が、痛みで悩んでいる方や、受診をためらっている方の背中を少しでも押すことにつながれば嬉しく思います。
これからも診療の中で気づいたことを、時間を見つけてゆっくり綴っていきたいと思います。
